外観の古びた旧体育館の素晴らしさに気づいたのは、その中ではじめて授業をした時だった。結構な広さがあるのに声を張り上げる必要がない。普通に話す調子で気持ちよく授業ができる。学生が10人であっても、50人であっても、この空間の内部では同じように座がまとまるのだ。
「レイモンドは音に敏感な建築家であった」と、まな弟子である三沢浩氏から聞いた。音と空気の流れを心地よく納めることが、設計者にとってどれほど大変な仕事であるのか、力強い調子で語っておられた。眼に見えない「心地よさの論理」は、現代ではなかなか理解されない。「怒り」でも「諦め」でもない、「事実」を語る言葉は強かった。
光と風を取り込む「引出し窓」は85年間現役である。「構造」「建て付け」がいかに綿密になされていたか。レイモンドは「風の流れ」を日本家屋から学んだという。